駆けろ!メガネプロダクション

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メガネが人格を持ったら――!? SNS小説『駆けろ! メガネプロダクション』連載第1話スタート!
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EPISODE 1

メガネが人格を持ったら――!? SNS小説『駆けろ! メガネプロダクション』連載第1話スタート!

春――……。

ようやく暖かくなり始めた風に流されて、淡い色のカーテンが揺れている。

少女はこれまでの自身に別れを告げるように、手にしていたツーポイントメガネを部屋の隅のゴミ箱へと投げ込んだ。

引っ越しの際にいつもの癖で持ってきてしまったものだけれど、明日から始まる新生活には、きっと必要のないものだから。

 

少女(ずっと長い間愛用してきたけれど、レーシック手術を受けたからもうきっと使わないよね)

白を基調とした壁紙の花柄も、木製机の木目も、置かれたカップのイラストまで、裸眼でくっきりと見える。まるでこの世界に初めて色がついたみたいだと、少女は思った。

本当はレンズを通して見てきた世界と同じはずなのに。

 

少女(風、気持ちいい……。明日から頑張ろう!)

 

ベッドに座ってしばらく呆けていると、少女を呼ぶ声と同時にドアが軽くノックされた。

少女「わっ、もうこんな時間!? ごめんなさい、マネージャーさん!」

少女は玄関で行儀悪く片足で跳ねながら大慌てで靴を履き、ドアを開け、明日から自室となるこの部屋を出て行った。

 

ゴミ箱のツーポイントメガネ「……」

 

深夜――。

明かりの消えた誰もいない少女の部屋で、小さなゴミ箱が揺れて倒れた。

しかしそこからラグマットの上へと転がり出たのはツーポイントメガネではなく、少女のメガネを掛けた小柄な女の子だった。

女の子「どうしよう……。ご主人様に捨てられちゃった……」

女の子「ここにいてはだめ。ゴミに出されちゃう」

 

女の子は立ち上がると、少女の部屋を出た。

深夜の繁華街をさまよい歩く。酔っ払いやナンパ、夜遊びの少年少女たちから身を隠すように歩くも、補導員に見つかって声を掛けられてしまう。

 

補導員「君、こんな時間に一人で何をしてるの? 名前は? 学校は? 家はどこ?」女の子(ど、どうしよう……)

女の子「わ、わたし……」

補導員「家出かな? 悪いんだけど、ちょっと一緒に警察署まで来てくれる?」

 

つかまれた腕を振り払い、逃げ出す。補導員が追いかけてくる。

繁華街の出口まで来たときに黒塗りの高級車が停止し、後部座席のドアが開いた。座席の奥には老紳士が座っていて、運転手は身なりのよい、しかし眠そうな瞳を薄い色のレンズで隠した半眼の女性がいる。

老紳士「乗るかね?」

 

考える間もなく飛び乗り、あわやというところで女の子は補導員から逃げ切った。

 

女の子「わ、わたし……あ……あの……えっと……」

女の子(なんて言おう? 自分はメガネだ、なんて言ったって信じてもらえない。きっと気持ち悪がられるだけだ)

老紳士「君は人間ではないね」

女の子「え……っ!? どうしてそれを……?」

 

老紳士が老眼鏡の縁を人差し指と親指で挟んで、鼻眼鏡状態にして微笑む。

 

老紳士「はっはっはっ、私たちもそうだからだよ。私は老眼鏡の付喪神で、運転している彼女は、ああ~、なんと言ったかな……ハイカラメガネの付喪神だ」

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女性「あは~、ハイカラって。OA メガネですってばぁ。せめてハイテクって呼んでくださいよ~」

 

老紳士「おお、そうだったそうだった。ハイテクだ」

二人の穏やかな雰囲気に、女の子はほっと胸をなで下ろす。

 

女の子「わ、わたしはツーポイントメガネです。先ほどは危ないところを助けていただいてありがとうございます!」

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老紳士「いやいや、かまわんよ。そんなことより、君のような若いメガネが、こんな時間に一人で出歩くのは感心せんなあ。何か事情でもあるのかね?」

 

女の子は捨てられた経緯を老紳士に話す。

途中から涙が止まらなくなり、ろくに言葉も出せなかったのに、老紳士も OA メガネの女性も、最後までうなずきながら聞いてくれた。

 

老紳士「なるほどなあ。飼い主がレーシック手術をしたか。なら、うちに来るといい。うちには他にも捨てられたメガネたちがいる。ただし、もちろんただではないよ。うちは声優を派遣する事務所でね。君にもそういった仕事をしてもらうことになるが」

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老紳士「どうするかね?」

女性「やめても別にいいのよ~。楽じゃないし~」

 

しかし女の子は力強く顔を上げた。

 

女の子(ご主人様がわたしを捨ててまで選んだお仕事がどんなものなのか、わたしは知りたい)

女の子「やります!」

 

やがて車は事務所に到着する。

 

老紳士と女性の後に続いて事務所に入ると、深夜であるにもかかわらず、そこには一人のサングラスを掛けた柄の悪い男性が、ソファからテーブルへと足を投げ出して座っていた。

男性「あ? 誰だそいつ?」

女の子(か、彼もメガネなのかしら。サングラス?)

女性「こらぁ、脅さないの~。新人ちゃんが怯えてるでしょ」

男性「知るかよ。俺はこれが地だ」

女の子「は、初めまして。わ、わたしは――」

 

名前がなかったことを思い出す。

 

女の子「あ~……」

男性「ちっ! いちいちおどおどするな。俺ぁグラサンだ。ここにいるやつらは全員人間じゃねえ。芸名しかねえから、そう呼べ」

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女性「あたしは OA メガネだから、ハイテクでいいよ~。事務兼、経理兼、雑務兼、受付係兼ね~。あとオンライン上のセキュリティシステムもやってたりするけど~」

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女の子(その掛け持ちの数!)

 

ものすごい美人だが、目の下に隈ができている。しょっちゅうあくびをしているし、口調も表情もいつも眠そうに見える。

老紳士「私は老眼鏡だからローガンだ。メガネプロダクションの社長をしている。君も好きに名乗ったらいい。それが実際の活動時の名前になる」

女の子「あ……。じゃ、じゃあ、ツーポイントメガネだから――」

 

ハイテク「ツーポンってどう? かぁわいいっしょ~」

 

なんか言う前に勝手に決められた。

 

ローガン「では早速だが、明日からアイドル声優のオーディションに行ってもらう。幸い、我々は付喪神。容姿に問題はない。メガネを外せないこと以外はね」

 

ツーポン「え、も、もう? わたし、まだレッスンも何も……」

 

ーつづくー

 

☆SNSでの投稿後、追記していきます(`・ω・´)ゞ