駆けろ!メガネプロダクション

EPISODEエピソード

SNS小説『駆けろ! メガネプロダクション』連載第5話の1を配信!
episode11

EPISODE 11

SNS小説『駆けろ! メガネプロダクション』連載第5話の1を配信!

その日、メガネプロダクションに激震が走った。

事務所で受話器を耳に当てていたローガンの顔が、険しくゆがむ。

 

ローガン「それは一体、どういうことですかな?」

 

ハイテク(……?)

 

一言、二言。言葉を交わし、受話器を置いたローガンが立ち上がる。ハイテクがすぐさま駆け寄って、その肩にトレンチコートを掛けた。

ハイテク「お出かけ……?」

ローガン「ああ」

 

ハイテク「予定では料亭あまみやで打ち合わせの会食だったのでは~……」

ローガン「それは延期だな。先方には私から連絡を入れておく。少々面倒なことになっているようだ。らがんは知っているね?」

 

ハイテク「えっと、オフィスらがんのことです~?」

 

声優業界最大手、でこそなくなっているが、老舗と呼ばれる大手プロダクションだ。多くの有名声優や舞台俳優が所属している上に、テレビ局やラジオ局に強いコネをいくつも持っている。

ローガン「圧力を掛けてきたみたいだ」

 

ローガンのネクタイを直しながら、ハイテクが尋ねる。

ハイテク「……うちみたいな弱小にですか~? なんでまた?」

ローガン「ツーポンちゃんとルーキーくんの快進撃だろうね。特にツーポンちゃんはアイドル声優ユニットに所属できただけじゃなくて、1stシングルのセンターまで取っちゃっているからねえ」

音声はこちら


 

ハイテク「ああ、オフィスらがんの子も同じユニットにいましたねえ。プリマの取り合いかぁ。 ……でもそんなことで?」

ローガン「その子、オフィスらがん社長のお孫さんだとさ。まさに目の中に入れてもなんとやらだ」

ハイテク「……あいたぁ~……。それは……眼球の奥まで抉られそう……」

ローガン「オフィスらがんに抗議は意味がなさそうだから、テレビ局やユニットのプロデューサーと話してみるよ。これはちょっと忙しくなりそうだ」

ハイテク「社長、もうお年なんですから、無理は禁物ですよ。最近あまり休んでいないでしょう」

ローガン「君にだけは言われたくないがね。寝顔はなかなかに眼福だったよ」

ハイテク「う……」

ローガン「はっはっは!」

 

ハイテク「でも、忘れないでくださいね。あたしの夢はあなたの夢を叶えることで、あなたの夢はあなたの子たちが羽ばたくための地盤を作ること。だから倒れる前に、回せる仕事はあたしに回してください」

ローガン「やってるよ。君も十分にやってくれている。そして、忘れないでくれたまえよ。君もまた、私の大切な子の一人だ」

音声はこちら

 

ローガンがハイテクの頭に手を置いて、軽く撫でた。

 

ローガン「では、行ってくる。――うちの子たちが驚いて帰ってくると思うから、その対処を頼む」

ハイテク「わかってますよ。でも、だめで元々、イチからも悪くないかも~?」

ローガン「そうならないように頑張ってくるよ」

大声で笑いながら、ローガンは事務所を出て行った。

 

ハイテク「……いつまで子供扱い……」

 

*

 

自身を取り巻く状況の変化に、わけもわからないまま振り回されて、グラサンやツーポン、ルーキーたちが帰ってきた後、ハイテクは彼らを来客用のソファへと座らせ、何が起こっているかを説明した。

ツーポン「……そんな……ひどい……。わたし、ユニットから追い出されてしまったのよ。1stシングルは順調だったのに、突然プロデューサーから通達されて……」

ルーキー「僕も次の舞台の役を降ろされちゃいましたよ。まずいなー、これじゃ来月はガチャが回せない。運営がまたすんごいレアを出すって噂があるのにぃ」

グラサン「あほ。ンなこと言ってる場合かよ」

ハイテク「その通り。全員が同時に役を失ったということは、メガネプロダクションの倒産危機と言っても過言じゃないから~……。うち、それほど裕福じゃあないわよ~」

これにはさすがのルーキーも顔色を変えた。

 

ルーキー「えっ!? ぼ、僕らどうなるんですか?」

ハイテク「よくて燃えるゴミ、悪ければ不燃ゴミ」

ルーキー「それ、どっちも一緒っす! うっそぉ~……」

ハイテク「今そうならないように社長が関係各位に会いに行ってくれているから、その結果を待ちま――」

ハイテクのスマホがなり出した。もちろん着うたは、『あなたのレンズにダイレクトアタック』だ。

 

ハイテク「ローガン社長から~」

ハイテクはすぐに通話を開始する。

ハイテク「もしもし、社長? ……え? あれ? えっと? ……あなた、どなた…

…?」

グラサン「どうした?」

 

ハイテクがグラサンに向かって首を左右に振った。グラサンは小さくうなずいて押し黙る。

ハイテク「はい……はい……えっ!? 嘘……。承知しました。すぐに向かいます」

グラサン「おい、どうしたんだよ!」

 

ハイテクの様子がおかしい。スマホの通話を終えて、珍しく眠気の飛んで消えた視線をあげた。

ハイテク「も、望月大学付属病院からで……」

グラサン「さっさと言え!」

ハイテク「――社長が出先で事故に遭って運ばれたって……」

 

呆然とするツーポンとルーキー。錯乱気味のハイテクの横で、グラサンがすぐにタクシーを呼ぶ。グラサンが夜に出歩けないように、ハイテクもまた昼間に出歩けないためだ。

事務所前についたタクシーに全員で乗り込み、望月大学付属病院へと向かった。

 

ーつづくー