駆けろ!メガネプロダクション

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SNS小説『駆けろ! メガネプロダクション』連載第5話の2を配信!
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EPISODE 12

SNS小説『駆けろ! メガネプロダクション』連載第5話の2を配信!

案内された病室には、点滴をつながれて眠っているローガンの姿があった。肉体のそこかしこに包帯が巻かれ、足にはギプスがはめられている。命に別状はないとのことだが、怪我と過労のためか顔色は土気色だ。

しかしそこではない。問題はそこではなかった。

グラサン「……!」

ツーポン「……!?」

ルーキー「あれぇ?」

ハイテク「……」

グラサンとツー、そしてルーキーが驚いたのは、ローガンが倒れていたからではない。ローガンが老眼鏡を外して眠っていたからだ。

 

裸眼――。

メガネの付喪神は、メガネを取った時点で肉体を失う。なぜならば、彼らの本体はメガネだからだ。そこに例外はない。

グラサン「おいおい、冗談だろ……」

ツーポン「そんな……」

ルーキー「へぇ~、人間だったんですねえ、ローガン社長って」

 

ハイテク「……」

 

グラサンがハイテクの胸ぐらをつかむ。

グラサン「おまえ、知ってやがったのか?」

ハイテク「ここは病院、大声は出さないで。今は眠らせるしかないから、一度事務所に帰りましょう」

 

*

 

社長であるローガンの不在と、彼の正体という二重の意味で、メガネプロダクションは沈み込んでいた。

ハイテクとグラサンは向かい合って座っているも、一言も言葉を交わさない。ツーポンはソファに座って、ぼーっと天井を眺めていた。

グラサン「おいハイテク! てめえ、いったいどういうこった!? なんでローガンが人間だってことを黙ってやがった! いつから知ってやがった!?」

 

ハイテク「……最初から」

 

ハイテクがぽつり、ぽつりと語り出す。

 

ハイテク「あたしは、ローガン社長の亡くなった娘さんのメガネだったのよ」

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ツーポン「……」

グラサン「……」

 

ハイテク「ローガン社長が娘さんの形見を捨てるに捨てられず、大切に手元に残しておいてくれていたおかげで、あたしに意思が芽生えた。だから、すべてのことを知ってる。あの人が、あたしを個人としては見ず、娘さん――あたしのご主人様の代わりとして見ていることも知ってる。なまじ、ご主人様と暮らしてきた記憶や思い出のほとんどを共有しているから、余計に……」

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ツーポン(ハイテク姐さん、娘さんの代わりじゃなくて、社長に自分のことを見てほしいんだ……。だから、寝る間も惜しんで頑張ってたのかも……)

 

絶句するツーポンの横で、グラサンが事務机の椅子を乱暴に蹴った。壁に当たって跳ね返った椅子が、けたたましい音を響かせて倒れる。

グラサン「んなこたぁ関係ねえんだよ! ムカつくぜ! 気に入らねえ! 俺たちゃ、てめえとあいつにずっと騙されてたってことかよ! クソが!」

ツーポン(ハイテク姐さんとパイセンが喧嘩なんてしたら、メガネプロダクションが割れちゃう……。でも、どうやって止めたらいいの……?)

 

ルーキーは空気を読まずにスマホゲーをしている。

 

ルーキー「おおっ、このライブ感! いいっすねえ~!」

ツーポン「……あんたねえ……。……せめて音消しなさいよ……」

ルーキー「ええ、ヤですよ。ライブ感減るじゃないですか。つか、別にいいじゃないっすか。社長が人間でなんの問題があるのか、僕にはさっぱりわかりませんもん」

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ハイテク「グラサンやツーポンは、一度人間に裏切られてるのよ。だから今、この事務所にいるのよ」

グラサン「おい! 他人の過去を勝手に口に出すな!」

 

ルーキーはスマホ画面を見ながら言葉を返す。

 

ルーキー「へえ~。僕はどっちかってーと、自分のやりたいことのために人間を裏切ってきた側だから、やっぱりそこらへんの気持ちはわかんないですねえ。それは、これまでもこれからも変わんないことですし」

グラサン「てめえ!」

ルーキー「ひぇ!?」

ハイテク「やめなって!」

 

ルーキーの胸ぐらをつかみあげたグラサンの腕に、ハイテクが手を置いて放させた。その手を乱暴に払いのけて、グラサンが吐き捨てる。

グラサン「何度も何度も、人間には裏切られる。失望ばかりさせられる。うんざりだ。てめえはどうよ、ツー。てめえは飼い主にゴミ箱に投げ込まれて野良メガネになったんだろ」

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ツーポン「うん……。でも、パイセンに前に言ったように、恨んでるのかどうかは未だにわからないよ。会ったらどう思うんだろう」

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ツーポン「っていっても、ユニットをクビになっちゃったから会おうにも会えないんだけど。歩くの、止まっちゃったから……。この事務所が……なくなるんじゃあ……もう……」

 

ハイテク「それって、メガネプロダクションが存続できれば、まだ続けたいってことよね?」

ツーポン「それはもちろんです! でも、全員お仕事がなくなって社長まで倒れちゃったんじゃあ、もう……」

 

沈黙が支配する。

 

グラサン「なんだ、てめえ? もうあきらめんのか?」

意外な人物の意外な言葉に、全員が目を瞬かせた。

 

グラサン「なんだよ……。なんなんだ、おまえら?」

グラサン「まさかてめえら、このまま引き下がるつもりだったのか? おいおい、しっかりしろや!」

ハイテク「いや、あんたこそなんなのよ。人間に失望したから、辞めるって流れじゃなかったの? あたしに騙されてたことも気に入らないんでしょう?」

グラサン「あ? ちげえよ! てめえやローガンの野郎に失望したってのは、正体が人間だってことを、俺たちに黙ってやがったからだ」

ツーポン「それはわかってるけど……?」

グラサン「おまえ、ローガンが人間だったら、なんか困ることあんのか?」

ツーポン「ないよ?」

グラサン「俺がムカついてんのは、あいつが人間だって自分から俺たちに打ち明けてたら、その時点で俺たちがやる気を失うとでも思ってたのかって話だ」

 

ハイテク「……人間が嫌いだったんじゃないの?」

 

グラサンがぽかんと口を開けた。

グラサン「あいつは別だろ。てめえから野良になったにせよ、人間に捨てられて野良になったにせよ、俺たちみたいなゴミを拾い上げて、どうにか自立させてやろうってなドのつくお人好しのジジイだぞ?」

ハイテク「え? え?」

 

グラサン「何度も言わせんな! だから! 俺がムカついてんのは、てめえの正体くれえ、最初っから言っとけって話だよ! 俺たちはそんなに信用ねえのか!? ローガンが人間だってだけで、俺たちがあいつから離れるわけねえだろうがよ! てめえもだ、ハイテク! ざけんじゃねえぞ! もっと俺たちを信用しやがれ!」

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ハイテク「え……あ……。ごめんなさい……」

あっけにとられた様子で、ハイテクがグラサンに頭を下げた。

ツーポン「じゃあ……パイセンは……」

グラサン「当然、俺は野郎の帰ってくる場所を死守するつもりだ。メガネプロダクションは終わらせねえ」

ルーキー「あ、それそれ。それなんですよ。僕もそれに一枚噛ませてください。せっかく野良メガネになれたんだから、僕はこれからもやりたいことをやるんで」

 

全員がキョトンとした瞳で、ルーキーを眺める。

 

ルーキー「えぇ~、なんですかその視線……。僕、最初からやりたいようにやるって言ってたじゃないすか。社長がメガネとか人間とか、どうでもいいんですよ。このローガン事務所が存続してくれないと困るんです。課金できなくなっちゃうでしょ?」

ハイテクとツーポンが視線を合わせて同時に破顔した。

 

ハイテク「うちの男連中って――」

ツーポン「――すっごくわかりづらいですね」

 

メガネプロダクションの反撃が始まる――!