駆けろ!メガネプロダクション

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episode14

EPISODE 14

SNS小説『駆けろ! メガネプロダクション』連載第6話の2を配信!

若い避難民「……ツーポン……さん?」

ツーポン「はいっ! わ、知ってくれているんですね! あ、配給どうぞ」

若い避難民「うわっ、本物じゃん! え、え? どうしてたった一曲でユニット抜けちゃったの!?」

ツーポン(オフィスらがんのことは伏せろって言われてるから……)

ツーポン「えっと、メンバーの一人に嫌われちゃって、一緒のグループでは活動できないって言うから、わたしが抜けることになったんです」

若い避難民「1stシングルのセンターだったのに!? 誰がそんなひどいことを!」

ツーポン「ごめんなさい、それは言えません。でも、このままじゃ終われないから、これからも応援していただけたら嬉しいです!」

若い避難民「もちろんだよ! 握手……あ、あと、しゃ、しゃ、写真を一緒に! ああ、スマホ、スマホどこ……」

その後も、ツーポンとルーキーには声を掛けてくる人が増えた。その様子を少し離れた位置からカレーを作りながら眺めていたグラサンが、二人の周囲に視線を巡らせる。

ほとんどの若者がスマホを取りだしている。むろん、動画や写真を撮るためだ。

 

グラサン(成果は上々だな)

グラサン「おいっ、ツー! ちょっと来い!」

ツーポン「……?」

 

手招きするグラサンの元へと、ツーポンが走り出す。

ツーポン「何? パイセン?」

グラサン「おまえ、もう配給はいい。他のボランティアに引き継いでもらって、応援してくれているファンの前で一曲バシっと歌ってやれ」

ツーポン「……………………はいっ!?」

ツーポン「え!? ちょ、だ、だって……マイクも楽器も音響設備も何もないのよ!? アカペラでもしろって言うつもりっ!?」

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グラサン「すりゃあいいじゃねえか。ファンもいるんだ。てめえの歌で元気づけてやれや。普段は応援されてる側が、応援するっつーのも悪かねえだろ」

ツーポン「お、応援してあげたいのは山々だけど、アカペラなんて一朝一夕でできるわけないじゃない! せめて音楽室で楽器を借りて、奏者くらい探してよ!」

グラサン「あほ、無茶言うな」

 

言い争いをしていると、ルーキーまでもが近づいてきた。

ルーキー「何してるんですか? あ! 二人で楽しいことして僕だけ仲間外れにしようったってそうはいきませんよ! 僕も参加しますからね! 断ったって無駄ですよ!」

グラサン「そうかそうか。じゃあてめえはツーポイントの歌に合わせて即興で踊れや」

 

ルーキー「……あ、僕、配給の仕事があるんでノーサンキュー……」

 

逃げようとしたルーキーの襟首を、グラサンがつかむ。

グラサン「待てこら! てめえ舞台俳優だろうが! 踊りくれえできんだろ! ミュージカルもやったって言ってたじゃねえかよ!」

ルーキー「む、無理っすよ! 曲に合わせてたっぷり練習しないと、即興ダンスなんて大恥かくにきまってるじゃないですかぁぁぁ! せ、せめてギターくらいにしてくださいよぉぉぉ!」

グラサン「なんだてめえ? ギターなんざ弾けんのか?」

ルーキー「ア、アコースティックギターしかいじったことないですけど、元ご主人の趣味だったんで~……」

グラサン(アコギなら音楽室にあるな……)

グラサンとツーポンが目を見合わせた。

 

夜、避難所となった校庭で、今度は大鍋に入った炊き出しのカレーを配る。

避難民に行き渡ったのを確認してから、ルーキーが音楽室から借りたアコースティックギターの音色が校庭にゆったりと響き始めた。

 

避難民たちが何事かと顔を上げる。

そのメロティにのせて、ツーポンがアコースティックバージョンの『ダイレクト♥アタック』を歌い出した。

 

グラサン(悪くねえ。むしろこの場は、アコースティックバージョンでよかったくれえだ。これなら若えやつらだけじゃなく、中高年にも喜んでもらえるはずだ)

いつもの元気な曲調とは違う、少しゆったりとした優しい歌声が、校庭でカレーを手にたたずむ人々に降り注いだ。

体育館で身を寄せ合っていた避難民たちも、何事かと顔を出す。熱のこもった視線やカメラ、スマホや携帯をツーポンとルーキーに向けて。

一人、また一人と、その人数が増えていく。避難所となった小学校の外からも。何事かと、二人の周囲に人が集まって。

 

やがて静かな歌声に、耳を傾け始める。

 

時間にして、わずか五分あまり――……。

 

 

歌い終わると、割れんばかりの拍手が起こった。

二人の周囲には多くの人々が集っていた。カメラやスマホ越しに見ることも忘れて、みな口々に好き勝手語りかけてくる。

ツーポンが深々と頭を下げた。

数秒後に頭を上げ、マイクを再び口元へと持ってくる。

 

ツーポン「……ご静聴、ありがとうございました。少しでもみなさんの元気につながればと考え、一曲歌わせていただきました」

ルーキー「いぇーい! メガネプロダクションのツーポン&ルーキーでしたぁ! あざっしたぁぁっ!」

ツーポン「それじゃ漫才師の挨拶でしょ」

ルーキー「お? お? じゃあデビューしちゃいますぅ? ユニット名はポンキーとかどうっすかっ!」

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ツーポン「もう! このバカ、ほんとにっ! ……あとでレンズ割られたいの?」

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暗く沈んでいた避難所に、小さくて暖かな笑いが生まれた。

 

*

 

ミニライブを見にきてくれた避難民との交流を終えて、ようやくツーポンとルーキーもスプーンを手に取った。

グラサンがカレーの入った紙皿を二人に渡す。

 

グラサン「お疲れさん。おら、食えや。てめえらのおかげで大盛り上がりだ」

ツーポン「スパイシーなのに辛くなくてまろやか! これ、パイセンが作ったの!?」

グラサン「おう。スパイスの調合からな。ちっと甘くしたのはガキもいるからだ。我慢して黙って食えや」

ツーポン(うっそぉ~……おいしすぎるんだけど……)

ルーキー「おかわり!」

グラサン「あほ。てめえらの分はもうねえに決まってんだろ。誰のための炊き出しだと思ってんだ、あぁ?」

ルーキー「あ。そっすね。我慢我慢!」

 

ルーキーの腹が、ぐぅ、と主張する。

グラサン「……ちっ、帰りにサービスエリアでラーメンでもおごってやるから、それで我慢しとけや」

ツーポン(優しい……)

ルーキー(優しい……)

 

ーつづくー