駆けろ!メガネプロダクション

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SNS小説『駆けろ! メガネプロダクション』連載第6話の3を配信!
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EPISODE 15

SNS小説『駆けろ! メガネプロダクション』連載第6話の3を配信!

それから数日おきに様々なボランティアに顔を出しては避難地区を小さく騒がせ、最初のボランティアから一ヶ月が経過したある日――。

 

ハイテク「ボランティアのおかげでネットの盛り上がりは上々。クラスタ外の世間にもメガネプロダクションの名前が浸透し始めてるわ。グラサン、もしかしてあんた、始めからネットに火をつけるつもりであの二人を連れ回してたの?」

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グラサンが肩をすくめて視線をそらす。

グラサン「さてな。気晴らしだっつったろ。SNSは結果論。それでいいじゃねえか。だが、ボランティアは自腹だ。事務所の寿命は二ヶ月から一ヶ月に縮んだぜ」

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ハイテク「巨大掲示板サイトではツーポンやルーキーの話もよく出てるみたいだから、また仕事がきてくれるといいんだけど……」

グラサン「……来るさ。結果的に商品価値の上がった二人を、商売人が見過ごすわけがねえ」

人気アイドルユニットのセンターでありながら、たった一曲だけで脱退した謎のアイドルが、イケメン舞台俳優と一緒になって各地のボランティアに顔を出しているんだ。

ましてや各避難地区で、たった一曲とはいえ、アコースティックバージョンでのライブを開催しているとなればなおさらのこと。

動画投稿サイトには、ルーキーのギター演奏で『ダイレクト♥アタック』のアコースティックバージョンを歌うツーポンの映像が、いくつも投げられている。それに視聴回数に比例して、表舞台から消えてしまったローガン事務所を応援する声も高まってきていた。

 

グラサン(とはいえ、これで何もアクションがなかったら、さすがにローガン事務所も終わりだ。頼むぜ、おい)

そんなことを考えていると、事務所の電話が鳴った。

 

ハイテク「はい。メガネプロダクションです」

応対するハイテクの口角が微かに上がった。電話を切って、ハイテクが右手の親指を立てる。

グラサン「どうだ?」

ハイテク「ツーポンとルーキーにワイドショーがインタビューを依頼したいですって」

グラサン「ようやく食いついてくれたか」

グラサンはソファに背中から倒れ込み、ハイテクは事務机の椅子の背もたれに、脱力したように背中を預けた。

 

しかしすぐに。

同時に身を起こして近づき、笑顔でハイタッチを交わす。

ハイテク「……ローガンの居場所を守ってくれて、ありがとう」

グラサン「ハッ! おまえらのためにしたわけじゃねえ。てめえ自身のためだ」

ハイテク「うん。それでもいい。これだけクラスタの内外問わずに浸透してくれば、オフィスらがんも表立って余計な茶々を入れてくることはないはず。あっちにしてみれば、社名を出されることが何より怖いでしょうし~?」

グラサン「……ハッ、そう願いてえな。一応デジタル付喪神どもにネット界隈の見回りをさせといてくれや」

ハイテク「はいは~い。お任せあれ~」

この日を境に、メガネプロダクションに再び仕事が舞い込み始めた。ツーポンはユニット所属でこそないものの、ソロ活動で声優業、歌手業ともに成功し、ルーキーにはテレビドラマやCMの出演オファーまできている。

 

*

 

ある日、ツーポンがスタジオの廊下を歩いていると、少女の集団とすれ違った。思わず立ち止まって、その中の一人を見つめる。

始まりの日、ツーポンをゴミ箱へと投げ入れた飼い主だった。

 

ツーポン(あ……)

 

弾けるような楽しげな笑顔。同じ格好をした少女らと笑い合いながら通り過ぎる。

ツーポンは立ち止まって振り返った。けれども、掛けられる言葉がない。

胸の中でぐるぐると、形の定まらない感情が渦巻くのを感じていた。

ふと、飼い主の少女もまた立ち止まる。まるで視線に気がついたかのように振り返って。

 

ツーポン「……」

少女「……」

 

他の少女らは、それに気づかず廊下を歩き去ってしまった。

二人だけがその場に残され、見つめ合う。

 

少女「あなた、たしかツーポンさんって言ったよね? ローガンさんのところの」

ツーポン「あ、はい……」

声を掛けられ、わけもわからずに緊張する。

 

少女「あなたのメガネ、とっても似合ってる。昔ね、わたしが大好きで使っていたメガネと似てるんだ」

 

ツーポン「……そう……」

ツーポン(今さらそんなこと……)

 

少女「メガネを掛けたままじゃ、この仕事はとてもやっていけないと思ってた。でも、雑誌やネットであなたの記事を読んで知ったの。それを掛けたままでも、ちゃんとこの業界で頑張っていけている人がいるんだって。だから、余計に後悔した」

ツーポン「……余計に後悔? 何をですか?」

少女「旅立つ前日に、それと同じメガネを捨ててしまったこと。ずっとわたしの目になって頑張ってくれていたのに。捨てた次の日ね、やっぱり拾って飾っておこうとしたときには、不思議ともうゴミ箱の中にはなかったんだ」

 

ツーポン「そう……だったんですね」

胸の中の感情の渦が、徐々に形を成していく。

日差しのように暖かく、柔らかなものに。

 

ツーポン(ああ、うん。いいんだ、もう。だって今が楽しくて、わたしは幸せだから)

少女「あ、変なこと言ってごめんね。時間取らせちゃった」

ツーポン「ううん。大丈夫だよ。でも――」

少女「でも?」

ツーポン「あなたには負けないように、頑張るよ。わたしはこのメガネのままで」

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少女「うん! わたしも負けないから!」

ツーポン「じゃ、またね」

少女「うん、また」

背中を向け合って歩き出す。気分は晴れ晴れとしていた。

 

スタジオを出てすぐにタクシーへと乗り込み、メガネプロダクションへと急いで帰る。

なぜなら今日は、特別な日だからだ。遅れるわけにはいかない。

 

四つのメガネが、一人の老人を出迎える。

 

 

ローガン「やあみんな、元気だったかい? ただいま」

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――おかえりなさい!

 

end